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東京地方裁判所 平成3年(ヨ)921号 決定 1991年3月30日

債権者

甲野一郎

外八九名

右債権者ら代理人弁護士

鳥生忠佑

青木護

債務者

有限会社石井ガレージ

右代表者代表取締役

石井明

債務者

勝村建設株式会社

右代表者代表取締役

勝村幾之介

右債務者ら代理人弁護士

飯田正剛

阿部裕行

主文

債権者らの申立てをいずれも却下する。

申立費用は債権者らの負担とする。

理由

第一主要な争点

一概説

本件は、マンション建設をしようとする債務者らに対し、近隣住民である債権者らが、①右建物の設計変更等の合意が存すること及び②計画どおりに右建物が建築されるときには受忍限度を超える被害が生ずるとして、建築工事の一部禁止を求めるものである。

主要な争点は、右①の合意の有無及び②の受忍限度を超える被害の有無であり、当事者の主張の要旨は以下のとおりである。

二債権者らの申立て及び主張

債権者らは、債務者らが、債務者有限会社石井ガレージ(債務者石井)を建築主、債務者勝村建設株式会社(債務者勝村)を請負人として、債権者ら居住建物(A棟、B棟及びC棟からなる恒陽王子マンションほか)に近接する別紙物件目録(一)記載の土地(本件土地)上に建築予定の同目録(二)記載の建物(本件建物―A棟とB棟とからなる)のうち、同目録(三)記載の部分の建築工事をしてはならないとの決定を求め(申立ての趣旨を、準備書面(四)で右のように変更)、その理由として次のように主張する。

1  本件合意に基づく建築禁止

債権者らの代理人である弁護士鳥生忠裕(鳥生)と債務者らの代理人である株式会社杉設計(杉設計)代表者若杉幸一郎(若杉)は、平成二年九月二二日から同年一一月六日まで七回にわたって本件建物の建築に関して協議を行い、この間の同年一〇月八日に左記の五項目の合意(本件合意)が成立しており、この合意により本件申立ては認容されるべきである。

① 本件建物A棟を一階削って一一階建てとし、本件土地上に建築予定の駐車場の高さも右一一階と同等とする。

② 本件建物B棟の最上階の七、六及び五階部分を各一戸、計三戸削減する。

③ 本件建物A棟と債権者らの一部が居住する恒陽王子マンションA棟との間隔を現設計より一メートル離して約五メートルとし、三階以上ではさらに一メートル離して約六メートルとする。

④ 本件建物A棟の東側各住戸の東側バルコニーは設置せず、右各住戸の東側の窓ガラスはすべて曇りガラスとする。

⑤ 補償金として二〇〇〇万円を支払う。

2  受忍限度を超える被害に基づく建築禁止

(一) 交渉経過

仮に本件合意が成立していないとしても、当事者間では、その成立に準ずる程度に至るまでの了解に達しており、これは合意が成立している場合の法的効力に近似するものとして、受忍限度の判断において被害の程度及び地域性などの要素以上に最大限に重視されなければならない。

(二) 加害回避の可能性及び義務

債務者石井はその代表者石井明と一体の関係にある。

恒陽王子マンションの敷地は、もと石井明の父石井金一郎(金一郎)が所有していた旧地番豊島四丁目八番二の土地の一部で、昭和五六年に金一郎から恒陽株式会社に売却されたものである。恒陽王子マンションは昭和五八年に分譲されたが、建築に当たっては、同社と共に金一郎が設計を大幅に変更し、建築戸数の削減や移転、風害防止のための植樹、公共施設の提供及び補償金の提供等、その建築に際して近隣の低層住宅居住者らに対して十分な配慮をしている。石井明は、相続等により金一郎の所有していた旧地番八番二の一部である八番五及び八番一一と八番一の土地、すなわち本件土地を取得し、本件建物の建築を計画しているものであって、金一郎が恒陽王子マンションの敷地提供者として同マンションの居住者に負っている被害と損害を与えないように配慮すべき特別の義務を承継している。

また、石井明は、本件土地の西側の土地(豊島四丁目八番一三)に三階建ての自宅建物を所有しているところ、大規模マンションの建築を計画する者は、隣地に自宅がある場合には、これを取り壊し、あるいは移動するなどして、敷地を有効に活用して近隣の被害を軽減するように最大の努力をする義務があり、本件において石井明がそれを行うことは容易である。

債務者石井も、本件建物の階層削減及び駐車場経営の計画の縮小による本件建物の建築位置の変更も可能であり、そうすれば債権者らの被害は著しく減少される。

しかるに石井明及び債務者石井は、営利追求のために、債権者らに対する加害回避のための建築計画の変更等を行おうとしない。

(三) 地域性

本件土地を含む地域(本件地域)は、用途地域としては工業地域とされていても、本件土地のごく近隣はマンション及び住宅によって占められており、工業地域として指定されている区域内にある工場は一か所だけで、他は事務所、研究所、倉庫及び駐車場であって、これもマンション等の居住用建物敷地に急速に変貌しつつあり、隣接する豊島五丁目には大規模な高層都営住宅団地が存し、本件地域はその住宅団地の延長として住宅が高層化しつつある地域であって、実態は住居系地域に変貌を遂げている地域である。

(四) 日照被害とその回復の可能性

債権者らは、本件建物の建築により日照被害を被る(債権者らの主張する具体的日照被害については、後記第二の三2のとおりである。)。

前記(三)のとおり、本件地域は住居系の地域であり、建築基準法及び条例に基づく日影規制に準じて受忍限度を考慮すべきであり、右規制基準によれば敷地境界線からの水平距離が一〇メートルを超える範囲に二時間三〇分以上日影規制となる部分を生じさせてはならないところ、前記債権者らの日照被害中恒陽王子マンションC棟居住者の被害はこれに著しく反している。

本件合意が実施されたときは、恒陽王子マンションに居住する債権者らで本件建物により日照被害を受ける六四名のうち、四〇名が約三〇分から一時間以内の日照の回復を受け、本件申立てが認容されることによっても相当程度の日照の回復が可能である。

(五) プライバシー侵害及び風害

本件建物は恒陽王子マンションA棟から四メートルの至近距離に建築されるため、特に同棟居住の債権者九名についてはそのプライバシーが大きく侵害され、また、風害ももたらされる。

本件合意③及び④の実行により、このプライバシー侵害の回復は相当程度に可能である。

(六) 騒音及び排気ガス被害

債権者らの駐車場建築によって、昼夜を分かたず多数の自動車が出入りし、そのエンジン音、上下動される機械・自動車騒音及び排気ガスによる日常生活の妨害、健康保持の阻害、交通事故の危険の増大及び環境悪化がもたらされる。

(七) 財産的価値の低下

本件建物の建築により、債権者らは自己の有する土地及び建物の財産的価値の低下の被害も受けることになる。

三債務者らの申立て及び主張

債務者らは、本件申立ての却下を求め、本件合意の成立を否認するほか、債権者らの主張を争い、債権者らが本件建物により受ける被害は受忍限度の範囲内であると主張する。

第二当裁判所の判断

一位置関係及び日影規制について

審尋の全趣旨によれは、債権者らは肩書住所地に居住していること、その居住建物と本件土地及び本件建物との位置関係等は、別図1ないし3のとおりであること並びに本件建物は建築基準法五六条の二に基づく日影規制の規制対象外の建物であることが一応認められる。

二交渉経過と本件合意の成立の有無等について

1  交渉経過等

審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。

① 債務者らは本件建物の建築を計画し、債権者ら近隣住民に対する説明会を平成元年七月に二回開催したこと

② 債務者らは同年八月一八日に恒陽王子マンション管理組合を相手方として建築工事妨害行為禁止の民事調停を東京北簡易裁判所に申し立て、右調停は平成二年三月八日の第六回期日に申立ての取下があり終了したこと

③ 債務者石井は平成元年八月三一日に債務者石井が東京都に本件建物の建築確認申請をし、平成二年一月二六日に建築確認がされたが、債務者らと杉設計は東京都に対し、債権者らを含む近隣住民との話合いを継続し、誠意をもって解決に当たるよう努力する旨の誓約書<証拠>を提出していること

④ その後、債務者らは債権者らに対し、設計変更を前提とする話合いにはいっさい応じられないとの対応を続けていたこと

⑤ 債権者らは同年五月三一日東京都建築紛争調整室に調整の申出を行い、同室において同年六月一五日から同年八月二〇日までの間四期日にわたって調整が行なわれ、債務者らは、次の第一案ないし第三案を択一的に提案したもののそれ以外の譲歩はできないとし、調整は不調で終了したが、同室から債務者らに対し、今後も話合いを継続すること及び工事協定も締結するようにとの要請がされたこと

第一案 設計変更は行わず、補償金として債権者らに合計三〇〇〇万円を支払う。

第二案 本件建物と恒陽王子マンションA棟の間隔が現設計では四メートルであるのを、建物の位置をずらしてさらに一メートルあけて五メートルとし、三階部分以上はさらに一メートル建物を削って六メートルとする。

第三案 恒陽王子マンションA棟との間隔を五メートルとし(この点では第二案と同様)、さらに本件建物の階段状になっている部分について、七階部分を一戸削って六階とする。

⑥ 右調整終了後、鳥生と若杉は、同年九月二二日から同年一一月六日の間七回にわたって本件建物の建築に関して協議したこと

⑦ 債務者らは、同年一一月一四日に本件建物建築の準備工事に着手し、平成三年二月一三日の本件申立て後の同月一五日に工事を再開したこと

2  本件合意の不成立

債権者らは、右1⑥の鳥生と若杉の協議中の同年一〇月八日に、債権者らの代理人である鳥生と債務者らの代理人である若杉との間で本件合意が成立したと主張し、債務者らは、若杉は債務者らの代理人であること及び本件合意が成立したことをいずれも否認する。

疎明<省略>及び審尋の全趣旨によれば、次の事実を一応認めることができる。

① 若杉は本件建物の設計者・工事監理者株式会社杉設計の代表者であるが、債権者らとの和解の可能性を求めて、債務者らの代理人的な立場で債権者らの代理人である鳥生と本件建物の建築に関し協議をしていたこと

② 若杉は和解のための一提案として、鳥生に対し、右協議継続中の債権者ら主張の日(全七回のうちの第三回目)に本件合意と同旨のことを口頭で提案したが、右提案については債務者石井の了解を得ておらず、鳥生の回答を得て債務者石井と検討する予定であったこと

③ 鳥生は、若杉の右提案に満足せず、さらに本件建物の設計変更及び補償金の増額(二〇〇〇万円から三〇〇〇万円へ)等を要求し、さらに協議は続けられていたこと

④ しかし結局、同年一一月六日に両者間の協議は決裂したこと

⑤ 両者間で、合意書あるいはそれに類する書面の作成交付は行われていないこと

右事実によれば、若杉は債務者石井と全く無関係に鳥生と協議したものではないが、同人の右提案は、和解に向けての交渉中の一時点における暫定的な提案に過ぎず、これをもって両者間の合意のための確定的な申込をしたものとはいえないばかりか、これに対する債権者ら代理人鳥生の承諾も存しないというべきで、本件合意が成立したとは認めることができない。

3  交渉決裂の原因等

右2のとおり、当事者間では平成元年七月から平成二年一一月までの間に、公的機関における手続も含めた長い交渉の経過があるにもかかわらず話合いがまとまらず、また、本件も手続についての審尋においても和解が成立しなかったものである。

このようにして交渉決裂に至った原因は、疎明<省略>及び審尋の全趣旨によれば、債権者らの要求及び交渉姿勢が、本件地域は住居地域と同視でき、かつ、債務者石井には敷地提供者としての特別の加害回避義務があること等を前提に(これらの前提が採用できないことは後記三のとおりである。)、設計変更に固執し、補償金の請求も具体的根拠の不明確な過大なものであり、また、感情的なものであったこと、これに対する債務者らの対応も、当初から意を尽くしたものではなく、責任をもって交渉を担当する者が誰であるかも必ずしも明らかではないうえ、提案も場当り的で一貫したものではなかったこと等にあるものと一応認められる。

4  小括

以上によれば、本件合意が成立したことを前提とする債権者らの主張1は、失当といわざるをえない。

また、本件合意は成立しておらず、また、当事者間の従前の交渉経過及びその決裂の原因が前記のようなものであるから、これらが受忍限度の検討における一要素として考慮されるべきであるとしても、債権者らの主張2(一)のように、被害の程度及び地域性などの要素以上に最大限に重視されなければならないとはいえない。

三債権者らの被害について

1  はじめに

本件申立ては、単に九〇名の債権者の個別申立てが併合されているに過ぎない。そうすると債権者らの被害については、それが各債権者に共通すると主張されている被害であれ、個別の債権者だけについて主張されている被害であれ、その存否及び程度は各債権者ごとに検討されるべきで、その結果、受忍限度を超えると判断される債権者について本件申立てが認容されることになっても、他の債権者については本件申立てが却下されるのは当然である(したがって、債権者らの準備書面(三)第一の一記載の主張がこれと相違するものであれば、その主張は失当である。)。

また、債権者らは、プライバシー侵害及び風害、騒音及び排気ガス被害、財産的価値の低下をもその被害として主張する(債権者らの主張2(五)ないし(七))。しかし、これらの主張については、それが本件申立てと如何なる関係にあるか不明であるばかりではなく、そのような被害を認めるに足りる疎明もない(ちなみに、乙三〇4及び5、三九及び審尋の全趣旨によれば、既に債務者らは、本件建物A棟の東側各住戸の東側バルコニーは設置しないかこれを小さくし、右各住戸の東側のガラスはすべて曇りガラスとする旨の設計変更をしており、これが実行されることによりプライバシー侵害はほぼ解消されることが一応認められる。また、騒音及び排気ガス被害は、専ら本件土地に設置予定の駐車場に基因するものであるが、本件申立ては右駐車場の建築禁止を求めるものではなく、関連性はない。)。

そこで、以下においては、債権者らの受ける日照影響に関し、本件申立てを認容するに必要な受忍限度を超える被害といえるか否かを検討する。

2  建築基準法上の規制及び地域性

前記一のとおり、本件土地は、都市計画法八条の用途地域としては工業地域に属し、建築基準法五六条の二のいわゆる日影規制の対象外であるが、債権者らは、本件地域は住居系地域に属すると主張する。

ところで、いわゆる日照事件における地域性を検討するに当たっては、その地域の範囲を如何に考えるべきか、将来性あるいは流動性をどの程度まで考慮するべきか、さらにそもそも都市計画がどのように策定されるべきであるのかといった点の考察が必要である。そして都市計画は、本来、行政機関において種々の要素を総合的に勘案したうえで決せられるべきものであって、裁判所が地域性を検討する際も、行政機関におけるこのような都市計画が尊重されるべきであり、また、日影規制も都市計画における用途地域の指定に基づいて規定されていることからすれば、用途地域の指定が右検討における重要な要素になるというべきである。したがって、行政機関による用途地域の指定の不合理性が著しくその指定が適正を欠くと認められる場合は格別、そうでない場合は、裁判所が既にされている用途地域の指定を無視して地域性を認定することは相当ではない。

本件においては、疎明<省略>及び審尋の全趣旨によれば、時期による推移があるが、現在では、本件土地の属する豊島四丁目のうち工業地域に指定されている部分には、恒陽王子マンションを含む五階建て以上のマンションのほか工場、倉庫、研究所及び駐車場等が存し、また東側に隣接する部分は、第二種特別工業地域とされていて住戸のほか工場及び倉庫等が存すること、本件土地の北側に位置する豊島五丁目部分は住居地域に指定されていて、豊島五丁目団地等が存すること、本件土地についての用途地域の指定変更の予定はないことが一応認められる。

右事実によれば、現在の用途地域指定が適正を欠くとはいえず、したがって、債権者らの主張のように、本件土地について、前記日影規制の及ぶ住居地域等と同等に論ずることは相当でないというべきである。

3  本件建物による日照影響

疎明<省略>及び審尋の全趣旨によれば、本件建物が計画どおりに建築された場合の冬至日における各債権者ら居住建物に対する日照影響(日影を生ずる最大時間)は別表のとおりであることが一応認められる。

なお、この点に関し債権者らは、債権者番号八、一九、二八、三五、五二、六二の債権者六名については各5.5時間以内の、同七四の債権者については四時間以内の、同七八、八一の債権者二名については各二時間以内の日照影響が生ずると主張する(その余の債権者らについての債権者らの主張は、右認定のとおりである。)。

しかし、疎明(前記のほか、乙六のうち恒陽王子マンションA棟が写っているもの、<省略>)及び審尋の全趣旨によれば、右九名の債権者らは、いずれも恒陽王子マンションA棟西端部分の居室の居住者であること、右A棟西端部分各居室には西側にも開口部があり、この西側開口部へのいわゆる西日に対する影響を加えるとその日照影響時間は債権者ら主張の時間となることが一応認められるものの、他方、右各債権者らの居住する右A棟各居室には、南側に広い開口部があることが一応認められるのであって、債権者らの主張するように西側開口部への影響まで加算する必要はない。

4  債務者らの被害回避義務

債権者らは、債務者石井はその代表者石井明と一体の関係にあり、石井明は、恒陽王子マンションの敷地提供者の承継者として同マンションの居住者に対する被害回避の特別の義務を負っており、また、本件土地の西側の土地に三階建ての自宅建物を所有しており、これを取り壊し、あるいは移動するなどして、敷地を有効に活用して近隣の被害を軽減するように最大限の努力をする義務があると主張する。

建物を建築しようとする者が、その建築に当たって近隣等に対する被害あるいは迷惑を生じないように配慮すべきは当然のことで、その配慮が不足し、その結果として近隣等に受忍限度を超える被害を生じさせるときは、当該建物の建築が差し止められることになる。しかし、債権者らの主張する敷地提供者であること及び自宅があることといった事情が認められるとしても、そのことは受忍限度判断の一要素として検討されることがあるのは格別、債権者らの主張するように、右事情の存在から直ちに、建築主の近隣への配慮の義務が他の場合に比して特別なものとなり、近隣の被害の程度が低くても差し止めができるとする根拠はない。

5  小括

前記3認定の事実によれば、債権者番号六、七、一八、二七の債権者四名については各四時間以内の、同五の債権者については3.5時間以内の日照影響が生じ、これら五名の債権者の受ける日照影響は他の債権者らに比しても大きいものといえる。

しかし、右五名の居住するのはいずれも恒陽王子マンションC棟の南寄り部分であるところ、疎明<省略>によれば、別図1及び3のとおり、右C棟はほぼ南北方向に長く建てられていて、その南側部分は恒陽王子マンションA棟(これは本件土地との境界にきわめて接近して建築されている。)に鋭角に接する位置に建築されていることが一応認められ、右C棟は元来日照の確保についての配慮がほとんどされていない位置及び構造で建築された建物といわざるを得ない。

そして、右五名の債権者を含め債権者ら(ただし、日照影響がない者及びこれが僅少な者は除く。)が本件建物により受ける日照影響の程度及びこれが生じる原因と、本件建物が日影規制の対象外の建物であること及び当事者間の交渉経過等、本件における前記認定判断した諸事情を総合考慮すれば、債権者らの右日照影響は未だ受忍限度の範囲内というべきである。

四まとめ

以上のように、本件においては、債権者らに本件建物の建築差し止めを認めるに足りる権利が存するとはいえないから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官笠井勝彦 裁判官田近年則 裁判官見米正)

<別表>日照影響一覧表凡例:

①債権者番号 居室等の詳細は,別紙当事者目録記載のとおり。

②日影時間は,日影を生ずる最大時間を示す。

①債権者

番号

居室等

②日影

時間

1

C  101

1.0

2

C  102

1.5

3

C  103

1.5

4

C  104

1.5

5

C  105

3.5

6

C  106

4.0

7

C  107

4.0

8

A  108

2.5

9

A  109

2.0

10

A  111

1.5

11

A  112

1.0

12

A  113

1.0

13

C  201

1.0

14

C  202

1.5

15

C  204

1.5

16

C  205

3.0

17

C  206

3.0

18

C  207

4.0

19

A  208

2.5

20

A  212

1.5

21

A  213

1.0

22

C  301

0

23

C  302

1.0

24

C  303

1.5

25

26

C  306

3.0

27

C  307

4.0

28

A  308

2.5

29

A  309

2.0

30

B  317

1.0

31

C  403

1.5

32

C  405

2.0

33

C  406

2.0

34

C  407

3.0

35

A  408

2.5

36

A  411

1.5

37

A  412

1.5

38

A  413

1.0

39

B  417

1.0

40

B  418

1.0

41

B  421

0

42

C  504

1.5

43

C  505

2.0

44

C  506

2.0

45

C  507

2.5

46

A  509

2.0

47

A  510

1.5

48

C  601

0

49

C  602

0

50

C  603

2.0

51

C  605

2.5

52

A  606

2.5

53

A  608

1.5

54

A  610

1.5

55

A  611

1.0

56

A  612

1.0

57

B  616

0

58

B  617

0

59

C  701

0

60

C  702

0

61

C  704

2.5

62

A  705

2.5

63

A  709

1.0

64

A  710

1.0

65

A  711

1.0

66

C  802

1.0

67

C  803

0

68

A  810

1.0

69

B  812

0

70

B  813

0

71

B  814

0

72

B  816

0

73

C  901

1.0

74

A  902

2.0

75

A  904

1.0

76

B  908

0

77

B  909

0

78

A 1001

1.0

79

B 1006

0

80

B 1007

0

81

A 1101

1.0

82

和田

2.5

83

鈴木

2.5

84

中川

1.5

85

高田

3.0

86

2.5

87

甲野

0

88

乙川

2.0

89

丙沢

2.0

90

丁海

1.5

91

0

別紙物件目録

(一) 所在 東京都北区豊島四丁目

地番 八番一、同番五及び同番一一(三筆)

地目 宅地

地積 764.27、1162.96及び1045.79合計2970.03平方メートル

(二) 所在 東京都北区豊島四丁目八番一、同番五及び同番一一

種類 共同住宅

構造 鉄骨鉄筋コンクリート造

敷地面積 2751.82平方メートル

建築面積 857.68平方メートル

述べ面積 6826.84平方メートル

高さ 地上35.83平方メートル

階数 地上一二階

(三) (二)の建物のうち以下の部分

(1) A棟のうち一二階部分四戸と、立体駐車場の一一階を越える部分(別紙図面(一)の赤斜線部分)

(2) B棟のうち、階段状になっている建物の最上階七階部分、六階部分及び五階部分各一戸の計三戸(別紙図面(二)の赤斜線部分)

(3) A棟のうち、東側各戸の東側から、二階まで一メートル、三階以上二メートルの建物部分(別紙図面(三)の赤斜線部分)

(4) A棟のうち、東側各戸の東側バルコニー(別紙図面(四)の赤斜線部分)及び右各戸の東側の透明窓ガラス(同図面の青斜線部分)

別紙図面<一部省略>

図面 (一)

図面 (二)

図面 (三)

図面 (四)

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